2024年度の業績は、営業利益と営業利益率が過去最高の水準となりました。また、Nittoグループとして初めて売上収益が1兆円を突破し、 変化が激しく、見通しが不透明なグローバル市場の中で、重視している高い営業利益率を確保しながら売上収益も拡大できたことを高く評価しています。
営業利益が増加した要因には、インダストリアルテープ、オプトロニクスの両セグメントにおいて、エレクトロニクス分野を中心に3つの変化を捉えて、ニッチトップ製品が業績をけん引したことが挙げられます。
1つ目の変化は、市場の拡大です。車載ディスプレイの大型化や搭載数の増加により、光学フィルムの販売が伸長しました。また、生成AIの普及によりデータセンター向けストレージの需要が伸びたため、高容量ハードディスクドライブ(HDD)向け精密回路基板の販売が増加しました。加えて、ハイエンドスマートフォンの生産台数増加に伴い、高精度基板の需要が増加しました。2つ目は、採用モデルの拡大です。ハイエンドスマートフォン向けにおいて、組み立て用部材に加え、EU加盟国で資源循環型社会の構築を見据えた「Right to Repair(修理する権利)」 が法制化されることを背景に、バッテリー固定用の電気剥離テープの販売が伸長しました。そして3つ目は、最終需要の復調です。ハイエンドノートパソコンやタブレット端末向けの光学フィルムや半導体メモリ、セラミックコンデンサー向けの工程用材料の需要が、ピーク時には及ばないものの回復基調で推移しました。
一方、ヒューマンライフは、2024年度に引き続き営業損失を計上する結果となりました。主力事業である核酸医薬の受託製造事業において、核酸医薬市場が想定を下回って推移したことが影響しました。しかしながら、2025年度は商用薬案件の受注が見込まれ、販売が伸長する見通しです。核酸医薬の受託製造市場は2030年まで年率20%で拡大していくことが予想され、Nittoグループは、今後の市場拡大を見据えて先行投資を進めています。臨床件数の増加や大型疾患向け商用薬の拡大といった需要を取り込み、さらなる事業拡大、収益改善を図ります。また、メンブレン(高分子分離膜)およびパーソナルケア材料においても収益改善に向けた取組みを進めています。例えば、メンブレンでは、これまで海水淡水化向け製品に注力していましたが、より高い付加価値を提供する排水・廃液のゼロ化に向けた製品を積極的に展開しています。海外における排水規制強化の流れに合わせて、今後、需要が伸びていくと見込んでいます。さらに、その先を見据え、液体だけでなく気体を対象とした分離膜の事業化に取り組んでいます。CO2や水素などを分離、回収、貯留し、有価物に転換して循環させることを構想しています。Nittoグループが、よりバランスの取れた事業ポートフォリオを構築していくために、このようなヒューマンライフの強化を重要課題と位置付けています。ヒューマンライフは、ほかのセグメントと比べてライフサイクルが長く、事業を軌道に乗せるまでに時間を要しますが、引き続き、中長期目線で着実に取組みを進めていきます。
2025年度のNittoグループを取り巻く市況は、その先行きの不透明感がさらに高まることが予想されますが、中期経営計画の財務目標・未財務目標のすべてを達成できるように、グループ一丸となって取り組んでいきます。
Nittoグループは、2030年ありたい姿として「ニッチトップクリエイターとして驚きと感動を与え続ける『なくてはならないESGトップ企業』」を掲げ、そこからバックキャストして策定した中期経営計画「Nitto for Everyone 2025」は、「ニッチトップ戦略」と「Nitto流ESG戦略」を掛け合わせて実践することを柱としています。
ニッチトップ戦略では、各製品分野で「なくてはならない」価値を追求してシェアNo.1を目指します。そして、Nitto流ESG戦略では、ESGを経営の中心に置き、地球環境や人類社会の課題解決に向けた事業活動を推進します。その具現化に向けて、新規に取り組む開発テーマを、環境・人類への高い貢献が認められる「PlanetFlags™/HumanFlags™(環境・人類貢献製品)」の基準に合致するものに絞り込み、例外を認めることなくこの方針を徹底しています。この2つの戦略を推進し、PlanetFlags™/HumanFlags™とGlobal Niche Top™製品やArea Niche Top™製品の双方に認定される製品(ダブル認定製品)を増やすことで、社会課題の解決と経済価値の創造の両立を実現することを目指します。
中期経営計画では、ニッチトップ製品がもつ高いキャッシュ創出力を活かし、次なる成長への事業ポートフォリオ変革に向けて、積極的な資源投入を行っています。設備投資は脱炭素投資も含め、2023年度から2025年度にかけて、当初の計画どおり3カ年累計3,000億円規模となる見込みです。これは、2020年度から2022年度までの3カ年累計額のおよそ2倍の規模となり、市場拡大などの変化が見込まれる半導体、自動車、ディスプレイ、HDD、核酸医薬、メンブレン、衛生材料といった「伸ばすもの」へ積極的に資源を投下し、次なる「なくてはならない」価値を創出していきます。
また、事業環境の変化とともに、成長が鈍化したり採算性が低下したような製品、環境規制物質が含まれているものや環境負荷の高い製品については整理を進めます。売れている製品の中には、昔ながらのやり方で収益性が低いものがまだ多くあります。私は何事においても先送りすることは最も避けなくてはいけないと考えており、事業譲渡、生産中止といった決断を思い切って実行し、それらの事業で培った経験と知見は新しいフィールドで活かしていきます。
このように成長分野への積極投資と、成長性や採算性、環境性を踏まえて製品の整理を実行し、絶え間なく事業ポートフォリオの変革を進めることにより、高い収益を生み出し、社会により大きな貢献を果たす強靭な事業基盤を構築していきます。
Nitto流イノベーションモデルは、アイデアから事業化までのプロセスが「0→1→10→100」で表され、各ステージにおいてイノベーションを促進する仕組みが設けられています。例えば「0(アイデア)→1(テーマ)」においては、全従業員から事業アイデアを募集する新規事業創出大会「Nitto Innovation Challenge(NIC)」を毎年開催しています。「1→10(製品)」においては、全社プロジェクトなどを活用した社内コンバージェンスを推進することによりテーマの完成度とスピードを高めます。そして、「10→100(事業)」においては、最も優秀な三新活動事例を表彰する「三新世界大会」を毎年開催しており、営業人財がお互いの取組みから学び合う機会となっています。2024年度は全グループの拠点から総勢100名以上が参加しました。
これらの仕組みの中でもとりわけユニークだと言われているのがNICです。NICは2020年からスタートし、世界中から集まった新規事業や新製品に関するアイデアが1年目は1,000件以上寄せられ、2年目、3年目は対前年比で減少しましたが、4年目、5年目と増加に転じ、2024年は1,500件以上が集まりました。
選考にあたっては、まず今後も検討する意義のあるアイデアを精査し、最終的に6件ほどに絞り込みます。そして、最終審査に向けて社内の適任者を伴走役につけ、アイデアを煮詰めていきます。最終審査は、私を含めて経営陣も参加しますが、大変白熱したものとなります。審査会場には青色と黄色の旗が用意され、各部門の目線で審査した結果、発表されたテーマに取り組みたい場合は青色の旗を、完成度をもう少し高めてから取り組むべきという場合は黄色の旗を揚げます。青色の旗が揚がれば、旗を揚げた事業部門が責任をもって開発を進めていき、黄色の旗が揚がった場合はそのテーマに関連のある部門で育成していきます。どちらの旗も揚がらなかった場合でも、提案者は引き続きアイデアをブラッシュアップし、翌年のNICに再び挑むことができます。
NICで集まったアイデアに対しては、1件ずつレビューを書いてフィードバックしており、従業員はそれを踏まえて、また翌年チャレンジすることができます。NICは、アイデアをテーマ化する機能、そして、従業員のモチベ―ション、エンゲージメントを高める機能をもつ仕組みとして、Nittoグループのイノベーションにおいて大きな役割を果たしているのです。
イノベーションにおいては、Nittoグループの強みである6つの資本(「強固な顧客基盤」「多様な人財」「8つの基幹技術」「健全な財務基盤」「安全・高品質なモノづくり」「持続可能な資源活用」)を活用しますが、テーマ・製品・事業のすべてのステージにわたって関連し、イノベーションの起点となるのが「強固な顧客基盤」です。
これまでの事業変遷の中で、お客様と築いてきた信頼関係は重要な価値となっています。各業界でトップのお客様がイノベーションに取り組まれる際に、Nittoへ真っ先に相談いただけるため、製品ライフサイクルの早い段階からお客様のニーズの具現化に向けて取り組むことができます。つまり、営業・マーケティング・技術の各担当者が一体となって、他社がまねできないNittoの磨き上げた新たな技術や機能をいち早く提案するとともに、お客様の考えを的確に捉えることができるのです。
スマートフォン向けの製品を例に挙げますと、まず偏光フィルムやセンサーフィルムを、続いて回路基板を供給し、2024年にはバッテリー固定用の電気剥離テープの販売を開始しました。このように複数の事業がつながり、トータルソリューションを提供することを通じて、お客様からの信頼を積み上げています。
この電気剥離テープは、「Right to Repair」の拡大を背景に、さらなるニーズが見込まれ、次のGlobal Niche Top™製品へと成長する大きな可能性をもっています。私は10年ほど前からこの電気剥離技術の可能性に注目してきました。当時は、まだお客様から注目されていなかった技術ですが、「いずれ必要とされる時期が来る、だからやっていこうよ」と旗振り役を買って出ました。当然ながら、事業開発を進めていく中で、すべてのテーマが思いどおりになるわけではありません。しかしながら、世の中のどこかに変化は必ずあって、ここぞと感じるところには積極的に経営資源を投入していく、そういう重要な決断を先導していくことが私の役割であり、日々実践しています。
Nittoグループが持続的な成長を実現していくために最も重要な財産は人財であり、多様な人財が活躍できる環境や働きがいのある組織の構築に注力しています。特に、「チャレンジを楽しむ」風土をつくることが重要であると考えており、従業員には失敗してもいい、失敗はチャレンジの証であると伝えています。失敗を経験することが重要であり、私は、「チャレンジせずに結果が出た人」より「チャレンジして失敗した人」を評価します。理想は7勝3敗で、3つの負け方を知り、壁を乗り越えて経営センスを磨き上げることが、次のリーダーへと育つ糧になるのです。
また、Nittoグループは「チャレンジを楽しむ」風土の醸成とNittoブランドの価値向上を図るため、プロスポーツへの協賛を行っています。2017年からタイトルパートナーを継続している男子プロテニスシーズンのクライマックスを飾る大会「Nitto ATP Finals」は、トッププロが参加し、特に欧州、中国で非常に高い人気を博しています。さまざまな分野においてトップを目指すNittoの事業戦略と、世界中の一流選手がトップを目指してチャレンジし、ベストを尽くす男子プロテニスの戦いには共通点があります。また、同大会では、病気に立ち向かう子供たちを試合観戦に招待したり、Nittoグループ従業員による募金活動を通して、世界中の子どもたちを支援する団体の活動に協力したりするなど、未来に向かってチャレンジする子どもたちを応援する社会貢献活動も行っています。
さらに2023年からは、大会開催地のトリノ市におけるCO2排出量を削減することを目的に「Nitto ATP Finals Torino Green Project」を立ち上げました。チャリティーオークションによる収益や寄付を原資として、イナルピアリーナ会場周辺の公園に植樹するなど、トリノ市の緑地化に取り組んでいます。
Nittoグループは、創立100周年となる2018年に、次の100年は地球環境、人類に貢献できる会社にならないといけないと決意し、2021年度には「ESGを経営の中心に置く」経営方針を打ち出しました。環境面における取組みにも注力しており2024年8月に国際的イニシアチブ「SBT」の認定を取得しました。すでに2030 年までのGHG(CO2)削減目標として、Scope1+2で2020年比46.3%減を掲げていますが、新たにScope3でも2022年比25%減を目標に掲げました。 自社だけでなく、サプライチェーン全体での環境負荷ゼロを目指し、リーダーシップを発揮してお客様、サプライヤー様とともに脱炭素社会の実現に向けた活動を加速していきます。
また、2024年11月には、アゼルバイジャン共和国で開催された国連気候変動枠組条約第29回締約国会議(COP29)において、環境省が設置する「ジャパン・パビリオン」に出展する企業に採択され、CO2分離回収・変換・利用技術をテーマに実地展示を行いました。 連日、多くの方々が立ち寄られ、この技術に関心を持っていただくことができました。工場から排出されるCO2を分離膜で回収し、貯留、固定化または有価物へ変換することでCO2の削減を目指します。さらに、大気中のCO2を回収する技術に取り組むことで、ネガティブエミッションにチャレンジしていきます。
Nittoグループは、シェアの高いニッチトップ製品をグローバルに販売しており、継続して安定供給する責任があります。サプライチェーンの強化に向けて、地政学リスクや化学物質規制リスク、気候変動問題などの潜在リスクに対して先回りして対策しています。特に、お客様に最高品質の製品を供給するため、全従業員を対象に品質意識調査やくるま座を実施するとともに、グループの全エリアの経営幹部が参加するグローバル会議で「品質コンプライアンス」をテーマに議論を重ねるなど、品質コンプライアンスの徹底を図っています。さらに、業務改革やビジネスモデル変革に向けて、AIをはじめとしたデジタル技術を活用した取り組みを、投資対効果の高いものから優先順位をつけて推進しています。
そして、最優先事項としているのが従業員の安全です。「安全をすべてに優先する」方針のもと、あらゆる事故や災害をゼロにすることを目指しており、安全に対する考え方は従業員に浸透、定着してきていると手応えを感じています。死亡、後遺症(障がい)が残る災害を重大災害、そして重大災害につながる恐れのある災害を重要災害と定義し、これらの撲滅に向けて取り組み、従業員が安全に、安心して業務に従事できる環境を追求していきます。
こうした取組みを継続して実施することにより、持続的な成長への基盤となる強靭な経営インフラを構築していきます。
経営トップの使命は、持続的に企業価値を高めていくことです。そのために、私は、すべてのNitto製品がPlanetFlags™/HumanFlags™としてあらゆる分野ではためき、Global Niche Top™製品やArea Niche Top™製品となること、つまりは、「社会課題の解決と経済価値の創造の両立」を実現し、高収益企業であり続けることを目指していきます。このような考えのもと、2025年度は、中期経営計画「Nitto for Everyone 2025」を仕上げるとともに、2030年ありたい姿の実現を見据えた次期中期経営計画の策定を進めます。
Nittoグループは、これからも持続的な企業価値向上に向けたチャレンジを続け、ステークホルダーの皆様に幸せを感じてもらえる会社を目指します。引き続き、ご理解、ご支援を賜りますようお願い申し上げます。